「J・エドガー」にて描かれる20世紀最強の男の秘密。リンドバーグ愛児誘拐事件の謎。

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思うに優れた役者にとっては、齢をとった老人の役を演じることは悦びであり興奮を覚える挑戦なのです。

今作「J・エドガー」でレオナルド・ディカプリオは、FBIを創設しその長官の座に50年近く君臨した人物J・エドガー・フーバーを演じています。

作中で、青年の頃から70歳を超えるヨボヨボの老体までを演じきってます。監督をつとめたイーストウッドのようにかくしゃくとした、骨ばった老人ならまだかっこいいのですが。

レオナルドが演じたJ・エドガー・フーバーは晩年、ただ肥満したなさけない体形になりっちゃってます。

イーストウッドが描く、J・エドガー・フーバーの生涯。

この「J・エドガー」は評価が一貫して高いわけではありません。2000年代、2010年代のイーストウッドの奇跡のような作品群の中では不評とのことです。

J・エドガーはほかならぬアメリカの連邦捜査局(FBI)をつくった人、J・エドガー・フーバーのことです。この人の伝記映画というか、彼の隆盛から凋落までを描いた映画です。

彼はつかんだ要人の秘密をネタにFBI長官の座に長期にわたって君臨し、20世紀最強の男と呼ばれました。それほどの権力を持っていたわけです。

この頃のイーストウッド監督の、実在した人物を題材にしたタイプの作品です。いわゆる世間に知られた面とは違う、その人のアナザーストーリーを描くのが特徴です。

これによりかつて映画化されたことのある人物でも、新しい切り口で別の一面を提示することができます。

ただイーストウッド監督の好みというのがやっぱりあって。成功と栄光に満ちた人物の、隠れた悲哀や運命を語ることが多いです。

カメ
カメ

だから暗い作品になっちゃいます。

J・エドガーが抱えた秘密。

ただ今作は実在のフーバーというのが、FBIをつくった人物であると同時にかなりの問題人物でもあったことはすでによく知られてるんです。

(まあ日本と本国アメリカとでは、フーバーやFBIという存在そのものに対する距離感や現実感が違っちゃうんですが。)

映画「J・エドガー」の特色は、この作品が秘密と同情を内包した作品だということです。この作品にはとにかく〈秘密〉が溢れています。

J・エドガー自身が他者の〈秘密〉をつかんでそれをネタにし、巨大な権力を手にしました。そしてそれを最期まで、本当に長きに渡って維持したんですね。

しかしJ・エドガー自身も秘密を持っており、それに苦しんだ人生でした。この秘密は〈隠匿〉といっても良いですね。(作品全体の照明の暗さにも象徴されています。)

トム・スターンの撮影したシーンは、自然の光ではありえないほど人工的な暗さを帯びます。これが彼のオリジナリティなんです。それにしても「J・エドガー」の画面の暗さ、抑えた照明には驚きます。

ちょっと対象が分かりにくいほどです。この暗みの中に、J・エドガー自身の秘密が隠されているんです。後でわかりますが、この画面の陰影は物語の主題と関わってるんです。

実在のJ・エドガーやこの映画で暴露された彼の秘密は、その秘密自体よりも彼の社会的な地位によって異常性が際立ちます。

リンドバーグ愛児誘拐事件の顛末。

J・エドガーははじめにアメリカ国内の共産主義勢力と闘い、次にマフィアと闘いました。闘いの中でどんどん権力を拡大していきます。

彼が人間力と実生活における精力、エネルギーにあふれていたことに間違いありません。弁論の才能も際立っていました。

彼の秘密とまではいかないですがコンプレックスとして、背が低いということはやはり気にしてたんですね。あとどもり症であったことも描かれています。

頭がいいというよりかは、大きな声と存在や発言での妙な(おかしみのある)説得力によって常に現場のリーダーシップを取ってきました。

作品の中で、J・エドガーの(またFBIの)大きな転換点となったのがリンドバーグの愛児誘拐事件です。リンドバーグは大西洋を初めて飛行機で横断した有名人ですね。

この映画であのリンドバーグがこんな事件に巻き込まれていたなんて初めて知ったんですが。でもリンドバーグって結構いわくのある人生を送った人なんです。

この映画でこの実際に起こった誘拐事件が取り上げられますが、これ一つでもう一本映画になるくらい奇妙でおぞましい事件です。

映画の中でこの事件のくだりがはじまるや、どことなく不気味な陰謀じみたこわい話になります。これは初見でもそうでしたが、くり返し見てもやはり同じ印象です。

あまりこういう経験はしたことありません。そしてこれはJ・エドガーの語り口によるものなのです。

「J・エドガー」の評価。

なにかもったいぶった超然とした語り口で、自らの経歴を弁じていくわけです。これがこの映画の特色です。老いたJ・エドガーが若い捜査官に口述し、自身の生涯をタイプさせるという構成なんです。

こうして過去と現在とがフラッシュバックで入り乱れるわけです。実は「J・エドガー」の低評価のひとつはこのフラッシュバックが多すぎて、観てて混乱してしまうことにあります。

イーストウッド監督はJ・エドガーの語りにのせて過去と現在とを効果的に配置しましたが、この作品はもう一つ構成上の仕掛けがしてあります。これがややこしいんです。

ただでさえJ・エドガーの独白による回想の記録という格好なのに、そこにJ・エドガー自身による事件の細部の〈捏造〉が含まれているんです。

これは年老いたJ・エドガーの虚栄心から来るものです。このストーリー上の仕掛けのために散りばめられたエピソードの意味が分裂し、全体を曖昧な印象にしてしまっています。

そのためストーリーがどっちらけだとか、何が言いたいのか分からないとかいう評価が巻き起こったわけです。

ただ自分は「J・エドガー」が大好きで、イーストウッド監督の最高の作品の一つだと思うんです。こうしたミステリーものにも近いストーリー上の仕掛けがあるけど、謎めいた作品では決してないんです。

まとめ:イーストウッド監督の真意。

この「J・エドガー」、言いたいことは明確な作品です。いろんな評価がされてますが、決してさまようような作品ではありません。

J・エドガーのパートナーであったクライド・トルソンの人生も感動と哀れを誘います。そしてもう一人。生涯の秘書であったヘレン・ガンディという女性。

J・エドガーのプロポーズを断った後、最期まで秘書をつとめた人です。この人が最後まで傍にいたことは、J・エドガーの公に知られていない別の評価を示すものです。

エンディングの、彼女がファイルを処分していくシーンが実に感動的です。この映画でイーストウッド監督の暗に伝えたかったことは、このラストシーンにあるのかもしれません。

映画人クリントイーストウッドを知れる本。

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