警官に囲まれ天に向かって慟哭するショーン・ペン。凄まじき「ミスティックリバー」の悲劇。

イーストウッド映画の風景写真 映画
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映画の舞台ボストンの街

「ミスティックリバー」には3人の中心人物がいます。(ジミー、ショーン、デイブ)これがまず映画として珍しいです。子供の頃の友達同士。

少年の1人を襲ったつらい出来事。いま20年以上の時を経て、この子のトラウマがじわじわと周囲の人間を変えていきます。ボストンという街全体が暗い影に包まれます。

それにしてもこの3人はかなりかけ離れた人生を歩んできました。1人は刑事に(ショーン)1人は強盗に(ジミー)1人は幼少の事件のトラウマをかかえて暮らしています(デイブ)。

まあ当然、少年時代の事件がきっかけで距離ができてしまったんですね。ふと気づいたんですが初年時代の子供たちのトラウマ、故郷の街での20数年の時を経ての邂逅。〈川〉や〈排水溝〉のイメージはどこかスティーブン・キングの「IT」を彷彿とさせます。

複雑に絡み合う運命を演じた3人の名優。

役柄の〈ジミー〉をショーン・ペンが、〈デイブ〉をティム・ロビンスが、〈ショーン〉をケヴィン・ベーコンが演じます。ショーン・ペンが〈ショーン〉役じゃないからややこしいです。

ショーン・ペンはものすごい評価の高い役者さんですが、出演作品はこの「ミスティックリバー」を見るまで縁がありませんでした。

背は小柄な俳優さんですがすごい迫力の顔をしてます。こわいです。一時期マドンナと結婚してました。すごいですね。

ティム・ロビンスがむちゃくちゃ根暗でどろーんとした演技をするのにショックを受けました。「ショーシャンク」のあのキラキラしたイメージがやはり強いですから。

でもティム・ロビンスはこの「ミスティックリバー」でアカデミー助演男優賞を獲りました。

ケヴィン・ベーコンは例の「ベーコン数」が有名です。あらゆるジャンルの作品に出演しているケヴィン・ベーコン。

彼と共演した役者を「1」、共演者と共演したことがある役者を「2」として計算するとほとんどの役者が「3」以内におさまるというんですね。これが「ベーコン数」。

それだけ多くの作品に出ているということ。いい意味でニュートラルな役者さんです。自分は「ア・フュー・グッドメン」のロス大尉が好きなんです。

イーストウッド監督衝撃作。「ミスティックリバー」。

「ミスティックリバー」のインパクトはすごいです。この作品をイーストウッド監督の最高傑作と考える人も一定数います。

イーストウッド作品の年譜を見ていると、2003年の今作以前と以降の作品で明らかに最大の刷新が行われている模様。

この「ミスティックリバー」での刷新と大成功によりイーストウッドの「監督」としての影響度がさらに増しました。

感心するのが、「許されざる者」ってもうすごい作品なんです。あの作品を撮っちゃったら完全にトップなんです。

そこからコンスタントに良作を発表してきて10年経って、で2003年「ミスティックリバー」でさらにこの大化けです。当時73歳。げげ。

「許されざる者」以降の作品はある程度「許されざる者」の影響下にあったんですね。テーマや特にストーリーの結末、余韻などです。(イーストウッドは作品ごとにあらたなことにチャレンジしてるといってますが。)

「ミスティックリバー」でそれをズッパリやめました。これは間違いなく撮影監督が前作「ブラッド・ワーク」からトム・スターンに代わったことが大きいです。

トム・スターンが撮影監督に抜擢されてイーストウッド映画の画面のイメージ、色彩感覚が大きくアップロードされました。これ脚本やストーリーの好みにまで影響するようになります。

イーストウッドはこれが自分にとっても大きくスタイルを変えるチャンスだと考えました。当時この「ミスティックリバー」がイーストウッド監督作品と知ったときの衝撃はすごかったです。

ショーン・ペンの貢献。

「ミスティックリバー」からイーストウッドの監督としての新境地がスタートしました。ただこの作品はやっぱり変わっているんです。

以降の作品も傑作だらけです。そしていわば人間の運命に目が向けられています。イーストウッド監督の興味もっぱらここにあるんですね。

世界中で特定の人しか経験できないような運命。ネルソン・マンデラやハドソン川に飛行機を不時着させたパイロット。アメリカ最強の狙撃手とか、別人の子供が帰ってきた女性。などなど。

しかしこの「ミスティックリバー」は運命に翻弄されるとはいえ、誰にでも起こりうる運命です。社会一般の問題も影響しています。だから余計に悲劇的で、恐ろしい物語です。

原作が複雑に、練りに練られた構成で。ちょっとした事実の食い違いが誤解を生み、主人公たちを必然的に悲劇の結末へと連れていきます。

もちろん悲劇の余波をくらうのはもっと大勢ですが。この3人というのがいいです。特定の人を主人公にはしていません。ジミー(ショーン・ペン)が主人公かとも思いますが、やってることが暗すぎます。

重厚な作品と言われますが登場人物は一般市民です。事件も悲劇的ですが矮小で、舞台も狭いです。しかし「ミスティックリバー」は実際、重厚と感じるわけです。

この作品を見始めるとき、なにか身構えるようなところがあるんです。そしてこれは主として、ショーン・ペンの演技の凄さからきているんです。

今作でのショーン・ペンの演技は、助演男優賞を獲ったティム・ロビンスと比べても異次元です。イーストウッド映画にでた多くの役者の中でも突出してます。

ある意味、この映画で真剣なのは彼だけなのではと思います。他の役者を悪く言ってるわけではないのですが。

中心人物3人の内、ショーン刑事役とデイブ役を他の役者と入れ替えても作品の効果は弱まりません。ただしジミー役がショーン・ペンでなかったら作品の評価はまったく別のものになっていました。

まとめ:名優ローレンス・フィッシュバーン

全体的に暗い、もの苦しいお話です。ですが興味をもってストーリーについていけるのは、刑事コンビが証言を集め捜査していくという王道の刑事モノの軸があるからです。

ローレンス・フィッシュバーンの存在感がいいですね。イーストウッド監督は縁があった人とは必ず2回はお仕事します。ローレンス・フィッシュバーンは「運び屋」でも麻薬捜査官として登場しました。

上司役のこの人の物腰はユーモアと余裕があって好感が持てます。

幸せイーストウッド。デイリリーを育てた老人は「運び屋」となる。車の運転なら任せとけい。
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