イーストウッド監督が初めて戦争映画に挑みました。大作「父親たちの星条旗」。

イーストウッド映画の風景写真 映画
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硫黄島の画像

クリント・イーストウッド監督の「硫黄島2部作」。まず第1弾となる「父親たちの星条旗」の感想・レビューです。当然のようにネタバレがありますのでお許しください。

イーストウッド監督、最初から「今作は大作だ。」とおっしゃってました。「正真正銘無謀な企てだ。どういうふうに撮るのかわからないぞ!」と。

しかし一方で「自分はこの時代を知っている。当時15才だったから、若い海兵隊員のルーツを知っている。私は適任だ。」と自信を見せました。

イーストウッド初の戦争映画、「父親たちの星条旗」。

(いきなりですがすみません。イーストウッドは前に「ハートブレイク・リッジ」という戦争映画を撮ってましたね。「父親たちの星条旗」が初の戦争映画ではありませんでした。)

カメ
カメ

こら。

「父親たちの星条旗」は第二次世界大戦、太平洋戦争の日米にとって最大の激戦地となった硫黄島での戦いを舞台にに作られた「硫黄島2部作」。その第1弾です。

このあとに第2弾として「硫黄島からの手紙」という渡辺謙が主演の作品が続きます。「父親たちの星条旗」がアメリカ側からの視点、「硫黄島からの手紙」が日本側からの視点で描かれます。

原作の小説が発表されてかなり話題になっていました。イーストウッドはそれを読んでぜひ映画化したいと思いました。

でもS・スピルバーグのドリームワークスが権利を買ってしまってました。残念。でもなんと2年後のパーティーで二人が出会ったとき、スピルバーグの方からイーストウッドに監督しないかと言ってきました。

それでイーストウッドが監督、スピルバーグが製作で、「父親たちの星条旗」は作られました。おなじみの信頼の男、ロバート・ロレンツも製作です。

「父親たちの星条旗」はすさまじい戦場のシーンがあります。イーストウッドファミリーが全力をかけて表現した戦争シーンです。

実際、硫黄島での戦いは太平洋戦争における最大の激戦区でした。日米それぞれ2万人以上の戦死者を出し、アメリカ海兵隊でいえば大戦で戦死した3分の1がこの硫黄島で死んでいます。

ただ一方で、やはりイーストウッド監督作品ですから単純ではありません。戦場シーンは主に始まって数十分ほどで、作品のテーマは別にあります。

アメリカ海兵隊がほぼほぼ摺鉢山を攻略したころ、山の頂上に勝利の証として星条旗が掲げられました。もともとこの摺鉢山(硫黄島にある日本の要塞)を攻略することがこの戦いの目的でした。

しかしこの国旗掲揚には隠されたエピソードがありました。そこからストーリーはこの星条旗をめぐる歴史ミステリーの様相を呈します。

戦争の裏側に隠されたあるドラマが描かれます。

実はこの星条旗掲揚には裏エピソードがありました。頂上に掲げられたこの旗、これは海兵隊の歴史に500年は残る記念品だと海兵隊の長官は考ました。で、オレにくれと言い出したんですね。

このため星条旗を別のものと交換することになったんです。戦場カメラマンのローゼンタールが撮影し有名になった「硫黄島の星条旗掲揚」の写真、これはこの2回目の掲揚シーンなんです。

いわばニセモノの星条旗というか、交換時のシーンを収めたものなんですね。だから旗をもつ兵士たちも1回目と2回目では別人なんです。

これは本当の史実であり、イーストウッド監督もこのくだりを完全に再現しています。とくに掲揚シーンは写真と忠実に重なるようにこだわりました。

ふだんは1テイク撮影にこだわるイーストウッド監督も、掲揚シーンだけは4,5回繰り返して撮影しています。

そしてこの写真の奇跡的な出来ばえのよさは非常にインパクトがあったため、当時戦争資金が底をついていたアメリカ政府と軍はこれを利用します。

星条旗掲揚の英雄たちを戦時国債キャンペーンに連れ出して戦争資金集めに利用したのです。

だから「父親たちの星条旗」の後半って、この英雄たちをおそった〈当惑〉がテーマです。国旗を掲げた6人の内の生き残った3人、彼らを追うストーリーになります。

3人は戦地から急に(むりやり)本国に連れ戻され、英雄扱いされます。セレモニーがやたら開催され、会うのはお偉いさんばかり。大統領にも面会しました。

しかし戦地ではまだ戦闘はつづいており、仲間がそこで戦っています。そもそも自分たちは最初の、「ほんものの」旗を揚げた兵士たちでもないのにです。

この3人、物語の中心人物なので名前を挙げておきます。

・ジョン・ドク・ブラッドリー・・・彼は衛生兵です。(作中では語り部です。)

・レイニー・ギャグノン・・・伝令係を務めた海兵隊員です。

・アイラ・ヘイズ・・・ネイティブアメリカンの海兵隊員です。

とくにこのアイラ・ヘイズという人物の運命は悲劇的です。イーストウッド監督もアイラの人生には衝撃を受け(グッとくるものがあった)、彼の人生の描写にかなりのシーンを使いました。

アイラには戦地から逃れて(ほんとは違うのに)英雄として扱われることに罪悪感がありました。後にアイラは戦友の父を訪ねて写真の真相を教えるために旅に出ました。

アメリカの国土の半分以上(2000キロ)を徒歩とヒッチハイクで旅したんです。この旅と彼の死はイーストウッド作品の中でも特に悲哀に溢れたものです。

戦場に散った影の英雄たちに想いを馳せましょう。

この戦いでは未だ1万人以上の日本兵の遺体が見つかっていません。イーストウッドは撮影にあたって当時の石原慎太郎東京都知事に会いに行きました(硫黄島は東京都)。

映画好きな石原都知事は映画にがぜん興味を示しましたが、硫黄島が日本人の聖地であるためロケは断られました。

しかし上陸許可を得たイーストウッド監督は、硫黄島を訪れ島の雰囲気をつかもうとしました。日本とアメリカの兵士の慰霊碑が並んで建てられているのを見ました。

戦争のシーンは硫黄島の雰囲気によく似たアイスランドで撮影されました。ここに探し求めていた地形と特徴的な黒い砂浜がありました。

まとめ:(おまけエピソードです。)

「父親たちの星条旗」は文句なしの名作ですが、観客は努力を強いられるかもです。それだけに見終わったときの法悦境が待ってますが。

作品の中で時間軸がやたらと入れ替わります。現在を起点に過去を回想する構成はイーストウッド監督のお気に入りです。「マディソン郡の橋」もそうでした。

ただ今作はさらに回想の中の回想、フラッシュバックの中のフラッシュバックが巻き起こります。しかし時代が変わるごとにスクリーンに年号を出すようなことはしたくありませんでした。

だからイーストウッド監督は劇場で見る際は、途中でポップコーンを買いに出ないでくれと頼みました。「最初に買ってから入ってくれ、ストーリーがわからなくなる。」

カメ
カメ

なにその可愛いエピソード。

「父親たちの星条旗」はエンドロールで「ヘンリー・バムステッドとフィリス・ハフマンに捧ぐ」と出てきます。この2人はスタッフで今作の撮影後に亡くなったんです。

ヘンリー・バムステッドは長くイーストウッド監督のそばで美術を担当してきた方です。ヒッチコックと仕事をしてたほどのハリウッドの古参でした。

ある時期から現場にイーストウッド自身より年上はこの人だけになってました。イーストウッドは彼をまさに父親のような存在だと言っています。

フィリス・ハフマンは女性でキャスティング・ディレクターでした。今作に出演するセリフをしゃべる100人以上のオーディションは彼女が行いました。

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