映画「パーフェクトワールド」です。爽やかで陰鬱です。93年、クリントイーストウッド監督作品。ケビンコスナーが主演です。
この作品のイーストウッドはいいです。この後くらいから〈老人〉になってしまいますが。今作のころはなんとか〈壮年〉です。
顔も引き締まってて力があります。「許されざる者」の翌年ですね。
イーストウッドとケビン・コスナー。
ケビン・コスナーが主演です。コスナーの希望により当初出演予定がなかったイーストウッドも出演してます。が、明確に主人公はケビン・コスナーです。
この「パーフェクトワールド」、当時リアルタイムで見てはいないんですが。ケビン・コスナーっていう名前はみんな知ってるはずなんですよ。
知ってる。
アメリカでは大ヒットした犯罪映画で有名になりました。ハンサムなスター俳優というイメージで認知されていました。好感度高い人です。
その後は製作・監督を本領として業績をあげます。でも日本ではケビン・コスナーといえばやっぱりあの「ボディーガード」の人です。
今作「パーフェクトワールド」では運命に翻弄されまくる男を演じます。物語は人間の性格を描き、また人間の運命も描くものですが。今作の主人公ブッチです。
この作品「パーフェクトワールド」、簡単なようで難解なようで簡単です。一筋縄ではいかない映画ですがムチャクチャ底が深いわけではありません。
あの謎めいた「批評家たちから評価が高い」という評価を受けるタイプの作品です。しかし今作の文学性、「言おうとしたこと」はミーハーな客でも分かりますよね。
象徴的なオープニングのカット。あの草原に横たわるケビン・コスナーの姿。これも最後まで見ればそのままの事実であり、目に見えるもの以上ではありませんでした。
素晴らしい子役。父と子の関係。
作品自体は逃亡劇であり追跡劇であるという構成。刑務所から脱獄した囚人ブッチ(コスナー)を州警察のレッド・ガーネット(イーストウッド)が追います。
両者には過去に因縁があり、その秘密はレッドによって途中で明らかにされます。ブッチとともに脱獄した男はやっぱりすぐに姿を消しましたね。
ここに本作を独特なものにする要素〈父と子の関係〉が入り込みます。逃亡中に人質にとった少年フィリップと、ブッチとの心の交流こそずばり「パーフェクトワールド」です。
このタイプの作品だと、子役が観客の気に入らないと作品自体好きになれないんですよね。しかしこのフィリップを演じた子役は優秀でした。
演技もわざとらしくないし、本当に子供らしい振る舞い・イノセンスがあります。イーストウッドは観客が感情移入できるよう、フィリップのキャスティングにも力を注ぎましたね。
唯一無二。「パーフェクトワールド」を生んだ風景。
この作品、特に晴れてるということが何かを象徴してるわけではないですが、全編を通して天気がいいですね。映画史上一番天気がいいかもしれません。
そのためストーリーが殺伐としているにもかかわらず、のどかな印象がします。これにより「パーフェクトワールド」特有の牧歌的な非現実感が現れてるわけです。
ブッチがアラスカを目指していたのは事実ですが、その執着が薄く感じるのは興味深いですね。このニュアンスの表現が見事です。
どこか諦めの境地をいだいたまま、フィリップと旅を続けていきます。おのずと真剣な逃亡劇よりも、フィリップとの交流を通して自分の運命の意義を発見することを望むようになります。
ブッチを追う州警察のレッド(イーストウッド)の乗っているトレーラーもどこか馬鹿らしく非現実な見た目をしています。
この奇妙な乗り物は脚本で指定がしてあったのか皮肉な最後を迎えます。もともと知事のパレードのためのトレーラーで脱獄犯を追うという謎センス。この作品はこうした要素を含め風変わりな視覚的イメージの塊なんですね。
不気味な青白い脱獄シーン。ハロウィン。トウモロコシ畑での殺害シーン。草原に横たわるブッチと血。風にまき散らされる札束。キャスパーの白いお面。トレーラーや銃などが、自然に対しやけに人工的な印象です。
しかしテリー(ブッチと共に脱獄した囚人)退場後は、おおむねのどかさと退廃に満ちたアメリカの景色がずっと続きます。これは最後までそうなんですね。
この事実はブッチとフィリップの旅が、すでにそれ自体イノセンスなものであることを示唆しているわけです。
ラストシーンは悲劇、悲しい結末と言われてきました。しかしむしろ難解、謎を残すためのもので、観客に長く余韻を残すことになります。
少なくともブッチが満足していたことは、死に顔の表情で明らかです。フィリップとの旅を通じて、ブッチには自らの思想をつらぬけたことへの確信があったのでした。それを出現させられたことへの満足があったのです。
まとめ:イーストウッド、不完全燃焼。
「パーフェクトワールド」。イーストウッドファンにとっては、あまりイーストウッドの大きな見せ場がないんですよね。脱獄したブッチを追う州警察という立場ですが、少ない情報と職業上のしがらみのためストレスの中にいます。
州知事から派遣されてきた心理学者の女性、またFBIから派遣されてきたいけ好かぬ男。ストレスの中にいます。
まあこの「追う側」の筋は人間関係のなかに笑いと皮肉があって面白いですね。「追われる側」(ブッチとフィリップ)の筋がやや単調ですから。
ストーリー上、レッド(イーストウッド)がかつて少年の頃のブッチを捕まえ少年院に送ったという事実が重要なキーだったものの、かなり間接的に描かれています。
この逃亡劇と追跡劇の結末はレッド(イーストウッド)にとって一番辛いものでした。
だから表紙が渋すぎる。イーストウッドを知る本「同時代を生きる英雄」。
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