
「アメリカン・スナイパー」は2014年公開のクリント・イーストウッド監督作品です。イラク戦争で活躍した米軍の伝説的な狙撃手クリス・カイルの人生を描いた映画です。
イーストウッド監督作品の中でも規格外の超ヒットを記録しました。自分にとって、イーストウッド監督映画No.1はこの「アメリカン・スナイパー」です。
美しく感動的で悲しい結末は、見る人にこの作品を人生で最も大切な映画と感じさせます。
映画をつくった状況が凄すぎる。
「アメリカン・スナイパー」の衝撃は一つにしぼれませんが。一番すさまじい事実として、製作中にモデルである軍人クリス・カイルが死んでしまったんです。
この人、殺されてしまったんですね。

詳しくは映画を見てね。
これによりこの映画は、当初とまったく違う意味をもつようになりました。まさに、クリス・カイルに捧げる映画になったわけです。
クリス・カイルの妻タヤ・カイルは、残された子供たちのために映画製作をつづけて完成させるよう望みました。
「アメリカン・スナイパー」というタイトルが、なにやら予感に満ちていて良いです。原作は「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」といいます。
クリスの悲しい特殊な運命がまるで、イラク戦争にいったアメリカ兵全員にも実は関りがある。そう示唆しているようです。
同時にクリスを撃った「スナイパー」が他ならぬアメリカの兵士であった皮肉も込められています。(ネタバレ)
これは「伝記映画」であり「戦争映画」です。イーストウッド監督は実在の人物の運命をたびたび映画にしてきました。
しかし今作の主人公クリス・カイルはイーストウッド監督自身よりずっと年下で、若くして亡くなっています。
さらにクリス・カイル自身、クリント・イーストウッドの大ファンでした。「許されざる者」などの西部劇が大好きだったんです。
イーストウッドからすれば、自分を憧れていた若者の伝記映画をつくったことになるわけです。

感慨深いよね。
戦場と家庭と。映画が描いた真実のクリス・カイル。
「アメリカン・スナイパー」を傑作たらしめてるのは、クリスとタヤの夫婦のストーリーを描いた筋です。映画のこの側面が、ホントいいんですね。
クリスが任務に従って、イラクに遠征します。そして6週間とか決められた任務が済むごとに、その都度一旦アメリカに帰ってくるわけです。
帰ってきたら恋人として、父親として家庭生活をおくるわけなんですが。これが専らタヤとのラブシーンです。終始エロいやり取りです。

エロいやり取りです。
戦争のシーンと、家庭での恋人との時間。これが交互に展開していきます。そして家庭で過ごすとき、本当にどこにでもいる若い夫婦なんです。
最初はバーで出会って、声をかけて口説いて。お酒をのんで酔っ払ってゲロ吐いてその日はおあずけ、みたいな。
(それで思い出しました)この映画、実はクリス・カイルは本に本に書いたほど功績をあげてないとかいって非難されてるんですね。
(「アメリカン・スナイパー」はクリスの自著にもとづいて作られた。)もらった勲章の数が実際はもっと少ない、とかいわれて批判されました。
なにより任務とはいえ100人以上を殺害してる人物を、英雄的に描いたとして倫理的批判もありました。
ただ「アメリカン・スナイパー」最大の価値は、この映画がもっと有意義な事実にもとづいているということです。
そしてその事実はそうした戦績や勲章の数とかのことではなくって。牧場使用人なのにカウボーイをきどってて彼女を寝取られたこととか。
タヤと運命的な出会いをした夜、ゲロ吐かれておあづけになったとか。こういう事実を描いてることの価値なのです。
じっさい、クリス・カイルが戦場でそれほど英雄的でない言動をしてしまったこと(たぶんしてはいたんだろうけど)は描かれてないです。
しかし女を寝取られたことや、タヤがゲロを吐いたことは絶対そのままあったことなんです。
仮に後の活躍の〈フリ〉として、クリスのかっこ悪いところを描くとしたら。それでもこういうエピソードは〈つくり〉ではできないものです。
「アメリカン・スナイパー」を偉大なものとするのこの正直さの前では、勲章の数がじっさい何個かは小さな問題です。
「アメリカン・スナイパー」衝撃のシーン。
この映画のおそらく最も悲痛なシーンは、タヤが電話でイラクのクリスにお腹の子が男の子だとわかったと報告するところです。
この時クリスの対が襲撃を受け、電話を落としてしまうんですね。タヤは電話の向こうに突然銃撃戦の音を聞くことになります。
そのままタヤはうずくまってしまうんですね。周りはさっきまでの自分と同じように幸せな夫婦たちがいるのに、自分だけは世界で一人ぼっちだと感じられたはずです。
作品は事実にもとづいていますが、この映画にはドラマさながら最高潮に盛り上がるシーンがあります。
クリスにとっての最後のイラク遠征で、宿敵ムスタファと決着をつけるシーンです。ムスタファは元オリンピック選手の狙撃手です。
作中ずっとアメリカ軍の前に立ちふさがって(イメージ)きた存在です。ムスタファの存在やこの決着自体が、おそらく最も脚色された部分です。
しかし周りを敵に囲まれた絶体絶命の状況の中で、ウソみたいな茶色い砂あらしが迫ってきてます。
この中で1900メートル先のムスタファを狙撃するという、すさまじく中二的なくだりはカッコよすぎです。これが今作の佳境です。
まとめ:この映画を絶対に成功させたんねん。
今作でもブルーレイを買ったら特典映像が見れたのですが。自分は「アメリカン・スナイパー」の特典映像が一番好きです。
製作の裏話とメイキングが見れます。そしてクリス・カイルがまさに映画の製作中に死んだため、製作陣の表情がかたく、悲痛です。
一方で、絶対に映画を良いものにしようという意思が感じられます。なんかみんな清いです。
具体的には脚本が練られていく途中で、クリスは死んでいるんですね。憧れのクリント・イーストウッドに話がもってかれる直前に、クリスは殺されてます。
クリス・カイルは大好きなイーストウッドが、自分の本の監督をしてくれたことは知らなかったわけですね・・・。
伝説の映画人クリント・イーストウッドを知れる本。

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