短編集「夏の雷鳴」の中の短編「夏の雷鳴」。この短編集の最後を飾るお話である。
世界の終わりをテーマとしためちゃめちゃ暗い作品であるが、この短編集の中では一番入り込みやすいよな。
読んでる間かなり鬱々とした気分になる。できれば現実の生活が順調なときに読んだ方がよいかもである。
キングが冒頭の導入文で述べているように、「ザ・スタンド」的な人類週末の世界。さらに述べているように、物語の時間と空間がものすごくコンパクトに凝縮されている。
生き残った2人の人物の、数日間の、距離でいうと数キロ以内で収まっている。まあ遠くに行けない、行きようがないんだよなぁ。
この作品、今気づいたんだが、ボルヘスの「疲れた男のユートピア」に似た作品だよな。
漂う雰囲気は似ているな。めっちゃ美しい作品ではあるんだよな。死の世界なのだが、自然の情景がめっちゃ美しい。この作品好きな読者けっこういると思うんだよなぁ。
キング短編「夏の雷鳴」。
壮絶なテーマのお話であるが、自然描写が美しい。秋の印象を受けるが、たしかに作中に晩夏と書いてある。
作品の舞台は明確に何州とは書いてないが、おそらくヴァーモント州であってるのかな。メイン州やニューヨーク州と同じく、アメリカの東部北側、カナダに近い州である。
これ作中に出てきたけど、スティーヴン・キングの想像力にとっては、こうした世界的終焉のきっかけってインドとパキスタンなんだな。ちょっと意外である。
この辺は国民ごとの想像力って特色があるんだなぁ。書かれた時期とものごとの報道のされ方にもよると思うが。
あ、これきっかけというより喩えなのかもしれない。どっちだぁ?
でもあれだな、今「バービー」とかいう映画で、危険に対するアメリカ人の感覚についていわれているが、キングはこういう風に深刻に想像しているんだよなぁ。
世界の終わり。
世界の終末をテーマにしているが、この話を読んでる間は意外にもすごい優しい気持ちになれるんだよなぁ。
主人公であろうロビンソンがこの世界で良い隣人と良い犬に出会えたことがよかったんだろうな。両者との出会いと最期までの時間はこうした状況では恩寵といってよい。
だからか。話の前書きでキングはこの物語を、かつてハーレーに乗って旅した際に見たという「生涯で最高に素敵な黄昏」を見たような場所で執筆されたと告白しているんだよなぁ。
自分はこのストーリーの最後のあたりで、少しは物語にポジティブな面を見つけたいと思うのだよ。
愛すべき隣人や犬が死んでいくことは悲しいことだが、それをいうなら物語の初めから悲劇の絶対値は最大に振り切っておる。
だが主人公ロビンソンは一方で、できる範囲で好きなことを定め、目的にしている。つまり愛車のハーレーのバッテリーを入手し、そのために街まで行き、地図を見つけて戻ってきている。
そこには、計画を立てて一つ一つ作業をこなしていく達成感を人生の最後に残そうとしていたのでは、と思わせられるよなぁ。
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