まず上の画を見ていただきたい。
これは「許されざる者」の映画パンフレットの表紙を開いたとこなんですが、イーストウッドと、奥にモーガン・フリーマンが馬に乗ってるとこが写ってます。めちゃめちゃ恰好いいですね。
なんかの記憶なんですが、クリント・イーストウッドはハリウッド史上、最も立ち姿がカッコいい俳優らしい。
立つ、まあ西部劇とか「ダーティーハリー」とか、普通にイーストウッドが銃を構えて立っている画は思い浮かびますが。
ただなんとなく立ってたたずんでいる、それだけでもサマになるわけです。
あの「荒野の用心棒」でポンチョを羽織って現れたとき、おそろしく脚が長かったんですね。イーストウッドは若い頃、それなりのウェイトトレーニングで身体を鍛えてたんだけど、シュワルツェネッガーのようなマッチョ・ヒーローじゃなくて。
それより最終的には水泳をして、肩幅はあるけどシュッと引き締まった、スマートな体形になりました。
今でも齢はとったけど、かくしゃくとした?腰も曲がらずびしっとした姿で我々の前に現れます。
で、このように馬に乗る姿も誰よりも恰好いい気がします。画を見ると、それこそぴったり五角形の、星の形に当てはまるように見えます。
モーガン・フリーマンの方は比べるとなんだけど、やや頭が長い、座高も高い、ひょろっとした感じに見えます。二等辺三角形なわけです。
星、というとスター。セルジオ・レオーネ監督は自作でイーストウッドとロバート・デ・ニーロを起用した経験があったんですが、二人の俳優を比べたときに、デ・ニーロは「役者の中の役者」、イーストウッドは「真のスター」と評したと言われています。
たしかに映画の主人公となると、スクリーンに映ってるだけで、問答無用の存在感が、オーラの輝きがあるべきなんだけど、荒野に立ち、馬に乗って駆けていくイーストウッドはそれだけでなにか見る者にうったえる、絵的な魅力があるのでした。
10年愛。
イーストウッドが「許されざる者」の脚本を手に入れてから、製作までに10年間も月日が経ってるんですね。
この脚本は、そもそも書いた人はデヴィッド・ウェッブ・ピープルズという人で、この人は「ブレードランナー」の脚本にも携わっていて、「許されざる者」でアカデミー賞の脚本賞にノミネートされたりもしたけど、他はあんまりこれという作品はないみたいです。
実はこの脚本は1970年代の後半にはこの人によって書かれてました。それを「ゴッドファーザー」で有名なコッポラ監督が内容を気に入って、早くに権利を獲得していたんですね。
で1980年代のはじめに、イーストウッドがこの脚本を手にして読んでみて気に入ったとき、先に権利はコッポラのものになってたわけで。ショックです。
でもイーストウッドがあきらめきれないで権利の打診だけはし続けていたところ、ちょうどコッポラとの契約が切れちゃったんです。結局コッポラは撮らずじまいでした。で、そのままイーストウッドが映画化の権利を獲得できたんですね。
ですが、イーストウッドはすぐには映画化に取り掛かりませんでした。これについては「大切な宝物を寝かせておいた」みたいによく言われるんです。
で、結局10年以上も経過します。実際は「許されざる者」の製作が始まったのは1991年です。ではこの10年経ったということに意味がありそうです、これでどういうことが起こったのでしょうか。
この「許されざる者」でイーストが演じる主人公であるウィリアム・マニーの年齢が設定上65歳くらいなんです。だからイーストウッドは10年寝かせることで現実の自身が65歳になって、主人公の年齢に追いつくことを待っていたわけです。
この作品が自分にとって特別であると感じていたからこそ、無理なく自然体で演じられる年齢になるのを待ってたんでしょうね。
その間、1985年ごろに「ペイルライダー」を作っています。これも人気のある西部劇ですが、このときはまだイーストウッドは壮年、といえる風貌だと思います。まだ60手前、というところでしょう。
「許されざる者」が重要なのは、これはイーストウッドの以降の主演作品にとっての意味合いで重要なのは、ということですが、正統派のクールなキャラクターであった自分が、老年以降も恰好いいいストーリーを演じられという、ヒントを得たところにあると思います。
二枚目スターで画面上で存在感がある自分が、60歳をすぎてもまだ主役というものをやれるのか。バイプレイヤーも向かないし、3枚目役もできないでしょう。主人公の父親役というのも難しい。イーストウッドはどうしても主人公になってしまう。
で、それ以降の主演作でおきまりのパターンとなった、かつて伝説だった男が、よみがえってまだまだやれるというところを見せてまわりをあっといわせる、という作風ができたわけです。
「スペース・カウボーイ」「ミリオンダラー・ベイビー」「グラントリノ」とかもそうですね。
名優ジーン・ハックマン。
ジーン・ハックマンは、この「許されざる者」で初めて知ったんです。すごく有名な大俳優なので、恥ずかしいんですが、それまで知らなかった・・・。
モーガン・フリーマンは知ってました。日本ではしかしモーガン・フリーマンの方が一般的にはよく知られてると思いますね。
キャストが紹介されるときに、まず、クリント・イーストウッド、で次がジーン・ハックマンなんですね。で、モーガン・フリーマンという順。(ちなみにその次がリチャード・ハリス)
この人、今はめちゃめちゃ好きな役者さんで、イーストウッドの次くらいに好きかもしれません。今は引退してしまってますが。
ただ、はじめはこの人の顔があまり好きになれなかったです。シュッとした渋い顔立ちと違う、まるっとした顔立ちで鼻がとがった、どこか古代のローマとかギリシャの賢人にいそうと思ったこともあります。
なんで相棒役のモーガン・フリーマンじゃなく、敵役のこの人が2番目なのかな、と思ったんですが、当時の特にアメリカ本国では知名度も実力もハックマンの方が格上だったんじゃないでしょうか。
この人はすでにアカデミー主演男優賞も獲ってる人でした。(1971年の「フレンチ・コネクション」)それに結果的にこの「許されざる者」でアカデミー助演男優賞を獲りました。
かつて日曜洋画劇場で「許されざる者」が放送されたとき、淀川長治さんの紹介の中で、これこそ本当のイーストウッドによる本物のウェスタンであり、悪党をあのジーン・ハックマンがやってるのだ、と興奮して解説していました。モーガン・フリーマンが出てることは、特に言及がなかったんですね。
で、「許されざる者」を見たら、この人が好きになります。それでこの人の他の作品も見だすようになりました。
「許されざる者」で主演男優賞を獲ったときの、他のライバルとなった俳優を見ると、ジャック・ニコルソンやアル・パチーノもノミネートされていて、彼らを押さえて獲得したわけです。
「ア・フュー・グッドメン」のジャック・ニコルソンは大好きなのですが、ジーン・ハックマンが「許されざる者」で演じきった役柄はかなり複雑でした。
保安官としての信頼感と正義感を維持しつつ、横柄な性格も見せなければならない。またイーストウッドの渾身の西部劇のライバル役としてのオーラを出しつつも、倒される立場であるのである程度の小悪党的なにくらしさを観客が抱けるようなしければならない。
それにハックマンは粗暴で横柄だが、意外と正義漢な役柄を演じてきたイメージも多い中、この作品では最後残忍な殺され方をします。かなり覚悟を決めてこの「許されざる者」に臨んだのかもしれません。
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