イーストウッド監督「ヒア アフター」。人間の苦悩、喪失感からの克服。

イーストウッド映画の風景写真 映画
スポンサーリンク
ヒア アフター

今回はクリント・イーストウッド監督の映画、「ヒア アフター」を紹介します。

2010年に公開された作品で、イーストウッド作品でいうと「インビクタス」のあと、「J・エドガー」の前の作品になります。

2000年代、2010年代と名作、大作を連発していたイーストウッド監督ですが、今振り返っても「ヒア アフター」はこの頃の作品群のなかでは異色だな、という感じがします。

死後の世界や、臨死体験をテーマにあつかっていて、すごく人間の内面的なところを描いています。舞台はサンフランシスコ、パリ、ロンドンと、国際色豊かなんですが。

冒頭では東南アジアの国での津波の被害の映像があり、これがあったため、日本では東北の震災と時期が重なったため公開をストップしたりなどの対応がされました。

「死後の世界」の表現

この映画「ヒア アフター」ですが、はじめ観たときは少し取っつきにくかった記憶があります。でも同時に、その部分がこの作品の特色ともいえると思うので、そこを見ていきたいと思ってます。

まず、ヒロインであるマリーが、津波に襲われて臨死体験をするのですが、そこで見ることになる光景です。

真っ白な眩しい光の中に人々が立っており、その人たちは逆光のため、顔つきや表情は判らないようになっています。(その人たちが、男か女か、大人か子供か、くらいは判るんですが)

これはイーストウッド監督の現実的、写実的なイメージとは全く違っている光景で、これがだから死後の世界(ヒア アフター)ということかと思います。

死後の世界の表現がこの光景なんですね。ただ、もっと正確にいうと、臨死体験のイーストウッド監督的な表現なんだと思います。

この光景に似たシーンは作品中で何度か流れるんですが、どれも長くは続かない、一瞬の光景で、フラッシュバック的に流れます。

イーストウッド監督の言うところでは、宗教的な解釈は避けたかったとの事なので、こういう一瞬の切り取りだけで死後の世界、臨死体験を表現したんだと思います。

一応はこの光景こそが、「ヒア アフター」の意味を表してるみたいです。あくまで暗示、ということですね。

イーストウッド監督はインタビューで答えています。「死後の世界や臨死体験についてはいろんな考え方がある。でも臨死体験は共通理解が得やすい。体験者は死に近づいたが死んだわけではないので話が聞ける。さらに体験者の話には類似する点がある。大勢の人がよく似た光景を見ているんだ」

3本の筋

あと、この作品にとっつきにくかった理由がもう一つあって、それはこの映画は視点がコロコロ変わりながらストーリーが展開するからです。

実は主人公というか中心人物が3人いて、一人はマット・デイモン演じるジョージ、2人目がマリーという女性、3人目が子供でマーカスという少年です。

この3人がそれぞれ独立した筋をもっていて、出会うのは本当に物語の最後の方なんですね。

初見ではその事情が解らないために、物語の全体の枠組みがつかみにくいし、さらに舞台もサンフランシスコ、フランス、ロンドンとコロコロ変わるのですが、変わったというヒントが意外に解りにくいです。

舞台が変わる時はそれぞれの土地の有名な建造物が映るので、それをヒントにして今どこの舞台でだれが主人公なのかを把握して観ましょう。

ただ、DVDの特典映像で撮影裏話が見れるのですが、イーストウッド監督は舞台ごとに微妙に照明や色調を変化させてはいるようです。

3人の主人公

発表当時、前作「インビクタス」に続いてまたマット・デイモンが出演していたから、えらくイーストウッド監督に気に入られたなと思いました。

マリーを演じるセシル・ドゥ・フランスという方はとても有名な実力のある女優さんなんですが、正直今作を観るまで知りませんでした。

マーカスを演じた子役も今作が長編映画デビュー作だそうです。

というわけで観てると、どうしてもマット・デイモンに親しさを感じてしまいがちなんですが、物語は3人全員の筋からなっているので、全員が重要です。

そこで、この3人についてのイーストウッド監督の意見を見つけたので内容を紹介しておきます。(livedoor Newsの映画公式チャンネルの動画内容を参考にしています)

マット・デイモンについて・・・

俳優らしくないのが彼の素晴らしさ。余計な演技をしない。わざとらしさがない。とても自然にさりげなく演じることができる。演技力のあるすばらしい俳優だが大げさで誇張しすぎる演技をすることはない。

確かにマット・デイモンって肉体派の、もっとごついイメージがあったんですが、映画を観ると繊細で、意外と地味な演技が上手いと思いましたね。身長もそんなに大きくないのでしょうか。

マリーを演じた女優セシル・ドゥ・フランスについて、その起用理由・・・

オーディションの演技がすばらしかった。それに見た目も気に入ったんだ。マリーという役にふさわしい外見の持ち主だった。若々しくて健康そうな雰囲気を漂わせていた。マリーという人物はフランスのテレビ局のジャーナリストだ。旅行で津波に襲われるが何とか生き延びる。セシルの容姿はそんな生命力を感じさせた。素晴らしい女優だよ。

確かに言われてみればこの女優さんには、キャリアウーマン的な力強さと、精神世界に向き合うことになる繊細さの両方が感じられるような気がしますね。

マーカスを演じた子役(マクラレン兄弟)は今作が長編映画デビューでした。イーストウッド監督の子役の扱い方について・・・

プロの子役を起用するのは避けたかった、撮影になれた子供はね。そういう子はやたらと社交的だったりする。だが本作に登場する子供は労働者階級の生まれで、内向的という設定だった。起用した子供はプロではないので演技させるのは大変だった。まず仲良くなっていろんな話をしたよ。

プロの子役がやたらと社交的というのは解るような気がしますね。海外でもそうなんですね。

特典映像でイーストウッド監督がこの子にみずから丁寧に指導しているところが見られます。確かにイーストウッド監督の演技指導は珍しい気がしますね。

「ヒア アフター」の音楽

この映画は3人の、死に関するストーリーがより合わさって完結しますが、そこにすごく相手への同情が感じられました。お互いに誰にも理解されないと思って孤独に生きてきた中で、本当の理解者に出会えたという結末は感動的です。

また、イーストウッド監督は今作でも音楽を担当しますが、「ヒア アフター」の音楽は非常に優しくて、イーストウッド監督の作曲したものの中でも一番いいかもしれません。「クローディアのテーマ」(「許されざる者」)もいいんですけどね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました