アーサー・マッケンですよぅ。
この人はいわゆるその、「怪奇作家」みたいな人なんだよねぇ。
このバベルの図書館シリーズは装丁が好きで、シリーズをまとめたボルヘスのファンでもあるから、見つけたらちょいちょい手に入れていたという。
でも実は大半を読んでいなかったという。この「アーサー・マッケン」もそうである。
このたびスティーヴン・キングの短編「N」を読んだが、その解説でキング自身がマッケンの「パンの大神」に影響を受けたといっていたよなぁ?
「パンの大神」は持ってないけど短編ならこのバベルの図書館「アーサー・マッケン」で読めるなぁ。すでに持っておった。
これはやっと来たいい機会なのでは?おお読もう。
で読んだのであった。収録されているのは短編小説が3編。「黒い石印のはなし」「白い粉薬のはなし」「輝く金字塔」これ。
アーサー・マッケンを読む。
意外と読みやすかった。
この3作だけしかわからないが、いやな感じの人間が出てこないんだよな。登場人物みんな教養がある、ちゃんとした人たちである。
なんかホームズみたいな推理モノっぽいスタイルだから、読みやすい。まず謎があり、それを解いていく。
しかしてその真相はボルヘスが序文でいうには〈悪魔〉である。それはその人類の起源よりもっと古いところから来たと想定されている。
ラヴクラフトはアーサー・マッケンをコズミック・ホラーのジャンルで高く評価しているらしいぞ。
ふむ。この3作だけ見ても、テーマは同じで現実世界の背後に異次元の恐怖が潜んでいることだ。そして登場人物はそれに飲み込まれ、負けてしまうんだよなぁ。
さらに2つの特徴に気づいたんだが。まずひとつ。アーサー・マッケンの場合、その異次元的恐怖は古い伝承や考古学と関連しているようだな。
おお、そうであるな。
あともう一つは、そうした設定の作風で書かれたのが今から100年くらい昔なんだけど、異次元的恐怖の存在が信じられてしまうくらいストーリーテリングが上手いのだ。
うむ。それについてはマッケンのちょっとした表現の仕方が可能にしている。
なお3作しか読んでいないことを忘れてはならない。
ボルヘスが序文でアーサー・マッケンは散文だけど詩作品みたいな文章という。「N」の解説(サンセットノート)でキングは(「パンの大神」についてではあるが)マッケンの文章を「ややもすればぎこちない文章」という。
たしかに実際読んでみると、大げさでちょっと面食らうくらいの比喩が常時ある。一見自分なりの文体を特徴づけようとしてそうしてるのかなとも思った。
でもただ真摯に表現している感じもある。というのは、登場人物がすれたところのない、素直な人ばかりで、だから感情もそれくらい感慨深いのかなと思えるのだ。
で、その大げさで詩的な、感じやすい文体で読者を揺さぶっておいて、その振り幅で異次元の恐怖の存在となじませていくスタイルである。
じゃあこの好感のもてる素直な登場人物の性格の設定から、コントロールが始まっている感じか。
面白いよなぁ。
共通する奇妙なイメージ。
キングの「N」と共通するイメージがあったのが興味深い。「N」とこのマッケンの3作には人里離れた、普段は人が寄り付かないところにある岩というイメージがある。
そこは非常に美しい自然豊かな場所、人の手が入っていない未開の土地という感じだよな。
あとどうしても川の流れや夕陽の表現が、流れる血や燃える山や街と書かれていて、読んでいてここだけ意味が凄すぎるのが気になるところ。
しかもこのイメージはどの作品にも出てきていたから、なにかきっとこだわりや狙いがあるんだろうな。
「N」の岩の並んでいる場所もこういうところだったよな。面白いぞぉ。
オマージュなのか、異次元の存在が現れ得る舞台はこういうところだとキングも無意識に思ったのかもしれない。
あと「バベルの図書館」には月報というのがついておる。
ああこれ、ついておる。
これに「儀式」というマッケンの短い作品が載っているのだが、これが興味深いお話だった。訳は南條竹則という人。
こんな短い作品にも特徴はしっかり出てたよな。これが読めたのは嬉しい。
「パンの大神」も創元推理文庫で読めるからいずれ読みたいところだな。
ぱんのおおかみ。
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